世界一おいしい料理

世界で一番おいしい料理は? と問われたら、迷わず「母の作ってくれた料理」と答える。もっとグルメな答えを期待して「なーんだ」と言わないでほしい。この答えは、フランス料理の達人で、帝国ホテルの総料理長であった人が実際に言った言葉でもあるのだ。心を込めて作られた料理こそ、一番おいしいという事実を物語っていると思う。
亡き母は、「何の特別な料理もできなくて」と生前口癖のように言っていた。しかし、母が毎日食卓に出してくれたみそ汁と漬物の味は格別だった。みそ汁にはネギ、サヤエンドウ、ホウレンソウなど季節の野菜やアサリなどが入り、味が大変濃厚でおいしかった。昨今の健康志向と違い、減塩などということはあまり気にしていなかったように思う。
漬物は、美しい緑色のキュウリや黒光りしたナスのぬか漬けが特においしかった。白いご飯にみそ汁と漬物、毎日食べても飽きない、家族皆が大好きな食事だった。
甘く煮たシイタケや豆も子どものころ大好きで、作ってくれるのを楽しみにしていた。
もう一つ、私の好物でちょっと変わったものがあった。焼いた「平貝(タイラガイ)」だ。しょうゆをたっぷり付けてこんがり焼く。コリコリした歯ざわりとしょうゆの香ばしい味が何とも言えず好きだった。これは今でも変わらない。私のためによく平貝を買うので、近くの魚屋さんが、母が行くと「今日はいい平貝があるよ」と声を掛けてくれたそうだ。
母は晩年、がんで胃を切除され、自分はあまり物を食べられなくなったが、最後まで私や孫たちに好きな物を食べさせようと一生懸命だった。好物のそれぞれ異なる皆を喜ばせようと、食卓いっぱいに、いろいろな料理を心を込めて作ってくれた。自分は食べもせず、おいしい、おいしいと言いながら食べる私たちの姿を、かたわらに座ってうれしそうに見守っていた。
どんな高級レストランのどんな有名シェフの料理よりも、あの母の作ってくれた料理をもう一度私は食べたい。


 
横須賀市長 蒲谷亮一

 

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