愛犬エリチンさようなら

約12年間、家族と生活を共にした愛犬が、先月死んだ。シェットランド・シープドッグの雌、名前は娘がエリーと命名したが、その後エリちゃんとか呼ばれているうちに、エリチンというロシアの大統領のような名になった。
エリチンがわが家に最初に来た時のことは、今でも鮮明に覚えている。ちょうどその日、私は外国出張から帰国し、成田空港から自宅に電話したが誰も出ない。私の帰りを首を長くして待っているはずなのに変だなと思いながら家に着き、自分で鍵を開け、独り不安な気持ちで待っていた。そのうち、妻と子どもたちが大騒ぎしながら帰ってきた。「買っちゃった」とうれしそうにはしゃぐ妻の腕に抱かれていたのが、生後間もないエリチンであった。
エリチンは不思議な犬だった。すごくもの静かでおっとりしており、内弁慶で、散歩に連れ出すと車を怖がってしゃがみ込んだ。大切な自分のエサがほかの犬に食べられるのを、横で黙って見ているような犬だった。
今にして思うと、エリチンはまれに見る名犬だった。彼女は、「敵意」というものをまるで示すことがなかった。「怒り」もほとんど表したことがない。誰に対しても、またどの犬に対しても常に温厚な態度で接した。このようなすばらしい性格の犬を、ほかに見たことがない。
エリチンは家族のみんなに愛されて、大変幸せな一生を送ったと思う。最近娘に子どもが産まれ、それまでの一家の女王様の地位が新しい小さな女の子に移ってしまったのを感じ、内心は寂しかったに違いないが、そのようなそぶりは少しも見せず、赤ちゃんをしきりとかわいがっていた。
亡きエリチンに、あらためてお礼を言いたいことがある。妻が亡くなって危機に直面したわが家にあって、子どもたちの心に安らぎと希望を与えてくれたのはエリチンであった。母親を亡くした子どもたちにとって、エリチンの存在がどれほど大きかったか計り知れない。その子どもたちが皆大きくなったのを見届けて、自らの役目を終えたかのごとく、静かに息を引き取った。エリチンありがとう、さようなら。


 
横須賀市長 蒲谷亮一

 

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